タコの心身問題を読んで

Twitterで見かけて、ちょっと興味が出てタコの心身問題を読んでみた。

 

本の中には宇宙人もかくやというような、多彩で柔軟なタコやイカのこれまでの歩みと、思考することや人生に関する哲学を海底のタコから始めることができるのか、という純粋な驚きがあった。

 

「進化はまったく違う経路で心を少なくとも二度、つくった。」

これがなかなかに刺激的。一章は特に読む価値がある。タコの観察から、生物の進化に思いを巡らせていく。一つの細胞だけで生きていた生き物が、細胞の塊になったら、何が必要になるのか。その機能をどのように果たしていくのか。はるか昔、気の遠くなるような昔に分岐したタコと私たちの歴史を辿りながら、脳とは何か、何かを感じるとはどういうことか、コミュニケーションって本質的にどんなもので複雑なコミュニケーションがなぜ発達するのか、そういったことを話題をあちこちと飛び、様々な色に複雑に輝くタコやイカに思いを巡らせながら考えていく。

タコやイカ学術書より、やはり哲学書の面白いところで想像力をはためかせるところが随所にあって面白い。遠い、これから何千年か先にタコがまた進化していきそうな片鱗のさらにかけらのようなものが示されているのも、なんだか夢があって面白い。

 

個人的に、あぁなるほどと思ったことの一つに、食べ物じゃないと理解した上でそのものへの興味を持続させ、それで遊ぶ、と言うことが「賢い」ことの一つの例として出てきたことだ。社会性やほかにも人間が様々な知的なことを達成していくために必要なことだ。ほかの動物では見ないと聞いてなるほど、と。さらに、我が家の0歳児を見て、ひたすらに遊んで、遊びながら気がつくと前日とは違う遊び方を見出しているのをみて、さらになるほどなぁ、と感じてしまった。

 

寿命と生殖・生存率や寿命と脳の大きさ(賢さ)の関係など、今までなんとなくそう決まっているものと、とくになぜ?と思わずにきたことが、こういう理由・思考実験をすると説明がつくというのも楽しかった。

 

1冊読みながら、あちこちで目からウロコがぼろぼろ落ちた。そういう本。

訳もとても読みやすくて、良かったです。夏目大さん。専門用語から話題もあちこちに飛んで大変そうだなぁと思ったけれど、違和感のない日本語に訳してくれていて、ストレスなく読めました。