ナチスとの我が闘争を読んで

ハフナーの初期の未完の作品を、死後遺族が発見してまとめたもの。

1939年に書かれたものだけれど、ナチスのいく末をかなり正確に見通しており、戦後に書いたもののよう。

第一次大戦から第二次大戦までのドイツ国内の雰囲気を感じ取れてとても面白かった。ドイツ人というより、プロイセン人を自認しているのか、なんというかバイエルンなど南部に対するちょっと冷たい雰囲気とか、プロイセン的なものへの自負とかを感じられ、クスクスと笑ってしまうようなことも。小国家たちがまとまったドイツの中で、アイデンティティーがまだドイツ人とまではいかない世代の最後の人たちだろう。尊敬する政治家はビスマルクとフリードリヒ大王、そういうプロイセン人的な感性の一端がみえるのが、ちょっと楽しい。

 第一次大戦後のドイツがどれほど混乱していたのか、国としての軸が不安定だったのかの一端に触れられる。そして、おそらくいまから言われているほどの熱狂的なものではなく、半数の人間は反対で、多くの人が半信半疑のまますすんでいく、なんとなく現代にも通じるひやっとした感覚や、洋の東西を問わず陥りがちなポピュリズムへの入り口が見えた。そういう、知識人たちはあり得ないと思っている人が当選し、なんとなく反対だが実績も出てしまって、見たいののはトランプ氏や、イギリスのEU脱退でも似たような流れが見える。(これがヒトラーの入り口とはまったく違うことは、ハフナー氏が述べている)

まぁとにかく、ヒトラーが大嫌いだというのがわかるのが、面白い。もうけちょけちょだ。本人が出版までこぎつけていないばかりではなく、章立てもまだはっきり決まっていない中での草稿なので、表現が過激だったり、意図している以上に主観的な表現もあるようだったが、読んで見て全く損はない。

 

一つ、翻訳は下手くそだとおもう。なんというか、英語でいう、意味がぼんやりしたitみたいな、日本語の指示語の使い方と違う部分を全部それ、と訳されていたりして、すごく読みにくい。あと、明らかにフリードリヒ二世のところを、フリードリヒ・ヴィルヘルム二世としてみたり、いくつかの誤訳もある。すらすらと読めない翻訳だったのが少し残念だった。